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下町ロケットを経営学の視点からみてみた②

佃製作所代表取締役社長の佃航平は、戸惑いながらも悩んでいた。
株式会社帝国重工の宇宙開発事業部長の財前が突如佃航平のもとを訪れ、佃製作所の持つ水素エンジンバルブに関する特許を20億円で買い取りする要望を伝えられたからである。
佃製作所を取り巻く環境は決して容易なものではなかった。
佃製作所は従業員200名、資本金3000万、年商100億に満たない精密機器製造メーカーである。
つい先日佃製作所は最大の取引先京浜マシナリーから、エンジン部品の調達をいきなり打ち切られたばかりである。
さらにはメーンバンクの白水銀行から、研究開発費に費用をかけすぎていることを理由に追加融資を断られている。
エンジン部品を製造する大手競合先ナカシマ工業からは、自社の主力商品ステラエンジンに関する特許侵害で訴えられ、90億円の支払いを要求されていた。
ナカシマ工業からは和解案として51%の株式譲渡を打診されている、困難状況下である。
現在ナカシマ工業を逆に自社の特許を侵害しているとして、逆訴訟を同時に行っていて賠償金を要求して、審議を争っている。
佃航平は、帝国重工財前からの要望に対して、どのように答えたらよいのだろうか。
回答に時間を1週間もらったものの、決断に時間は多くかける余裕はなかった。

 


下町ロケット経営学のケースにしたらこんな感じの始まりでケーススタディになるのでしょう。
下町ロケット全10回を通して、経営上の一番の決断のジレンマが生まれるのは、第1回~第2回にかけてです。

 

■経営上のイシュー

当初選択肢としては、下記2点
①帝国重工に売却する。
②特許使用許諾契約として、使用料を払うことを飲んでもらう。

考えるイシューは下記のようなものになってくるでしょう。


・いつ資金はショートするのか?
これはアカウンティング(会計)の領域。これまでの財務諸表と経営戦略、マーケティングを基に月次で予測損益を出して、必要な運転資本を算出。
この辺は物語では経理部長の殿村さんが手腕を発揮してますね。


・どうやって資金調達をするのか?
知財裁判の賠償金獲得、帝国重工の特許交渉、借入余力など精査しての追加融資もしくは社債発行、エンジェル、ベンチャーキャピタルなど幅広く検討してよいけど、
実際考えられる金融機関、投資家、投資会社とすべて交渉をしているみたいですが、断られています。
※VCはイグジットのことを考えるとどうかと思うのと、個人投資家は額が大きい為大変そうですけど。
メーンバンクの白水銀行へは、研究開発費の削減を決断しPLの構造を変えて融資を依頼してます。これも断られて、結局裁判か帝国重工との交渉かというとこにいきついています。


・水素エンジンバルブの特許の価値は?
 ‐帝国重工への妥当な売却額は?
 ‐特許使用許可契約にした場合の価値はどうか?
このへんはファイナンスとネゴシエーションの領域ですが、どれだけ合理的な価値判断ができるかということと、2社の交渉力を検討することになります。

 

■佃航平の決断は「非合理の理」?
一橋大学経営大学院の楠木教授は持続的競争優位を築いた企業には、一見して非常識だがよくよく見ると合理的な「非合理の理」というべきことを実行していると言われています。
佃航平は、帝国重工の申し出に対して、突如第三の選択肢「部品供給をしたい」と申し出ています。

もし裁判に勝って和解金56億円が入ってくることがなかったら、この決断は絶対にでてこなかったでしょう。資金がなくなっちゃいますから。
※申し出が来たのは裁判結審前、供給申し出は結審後。


経営危機を乗り越えて、あとは売却か使用契約かどっちが得かということを合理的に決めそうですが、佃は第三の選択肢を提示します。
この辺はドラマとして見せ方も巧い。
一見すると、ロケット失敗の際は訴えられる可能性もあるし、収入面では2つの選択肢に遠く及ばない非合理な選択肢だとは思うのですが、もう一段レイヤーを上げていくと理のある決断だとわかります。

この決断があって前回ブログで分析したように組織の7Sが強化されていくことになります。
ロケット製造の品質への挑戦と帝国重工のキャラの立ってる詰めが、佃製作所社員たちのプライドを刺激して、団結力と自社への愛着を高めていくことになるからです。

結果として組織は強化され、ロケットを納品しているという企業ということで、ブランドと信用を獲得してKSFを満たしていくことになります。


■決断の底流にあるものとは?
単純に表面上の合理的な話だけでは、第三の選択肢「部品供給」については出てこなかったかもしれません。
なぜ佃航平は、部品供給をしたいと言ったのか?
それは彼が歩んできた経歴と価値観が強く影響をしているものと思われます。

氷山モデルで表すとこんな感じでしょうか。

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■最高のシナリオは結果論?
56億のキャッシュが入るというラッキーがなかったら、この決断はやってはいけない決断となるでしょう。
特許売却すれば経営危機は一気に解決するのですから、資金の見通しがつかない状況だと売却もしくは使用契約するしかなかったと思われます。
※額は精査して交渉するべきでしょうが。
ただそうなると感動の物語にはならず、良い会社のまま存続となるだけです。

今回は佃航平のこだわりにより、帝国重工への返答を遅らせその間に資金の見通しがつき、よりハイリスクだが会社のDNAを強くする決断を行えたことになります。
ついついこんな危機を迎えると視野が狭くなりそうですが、佃航平は自分の判断を鈍らせませんでした。

心からの価値観に基づいた決断は、成功確度を高めるということですかね~。
経営はお金だけの話じゃない。

ただ価値観だけの問題じゃなく、社員たちが奮起できたのは、佃と社員との間の積み上げた日ごろの信頼関係があってこそでした。
このシナリオになったのは、人間性の勝利ということで