下町ロケットを経営学の視点からみてみた。

TBSのドラマ「下町ロケット」、本日が最終回ということ。
裏番組のクラブワールドカップ決勝 バルサ×リーベル戦とかぶるのが残念。

楽しみです。

下町ロケットをわりと経営学ケーススタディのように観ていたので、思ったことをだだっとまとめてみました。

ドラマ見てない方はネタバレ注意。


■佃製作所の危機とは

佃製作所には様々な障害がドラマ上で展開されますが、真実これはやばいというのはやはり第1回~第2回の資金繰り問題でしょう。
会社は資金が尽きたら、ゲームセットです。
神谷弁護士は、本当に救いの「神」になっています。
最大の取引先(年商10億)を失う+ナカシマ工業からの知財訴訟によって、運転資金が足りなくなる上、銀行から融資を断られるという事態でした。
これを訴訟によって和解金56億を得るだけでなく、佃製作所の知財戦略を見直しさせることで、戦略上の弱点を補うことになりました。

■佃製作所の強みとは何か?

ドラマ見ながら感心してしまいますが、佃製作所はすごい企業だと思います。
整理すると下記のような感じでしょうか

・戦略:技術開発による差別化集中戦略。
※たぶん佃航平は経営を引き継いで、経営の戦略を転換させている節があります。
その根拠は、佃製作所の事業部構造と、構成される従業員の年齢層のばらつき。
山崎率いる技術開発部は全員がめちゃくちゃ若い。佃航平時代に全員採用された人たちでしょう。
一方年齢層が高いのは営業第一部長や、生産部門の人たち。
おそらく前は下請けとして普通に受注生産するだけのモデルだったのではないかと思います。

・財務、会計:「我々の出す数字は正しい。いい時はいい時なりに、悪い時は悪い時なりに会社の実態を反映させている」
東芝へのあてつけか!?と勘ぐってしまいそうなセリフ。
たった一日で要求される大量の情報を帝国重工に提示するシーンがありますが、これは日々経営を行いながら、きちんと数字を取る仕組みがあるということ。
ちゃんとKPIなど設定しているのでしょう。
資本金は3000万ということですが、簿価上の話。自己資本比率も厚いということなので、かなり利益剰余金を積み上げてきているようです。
※膨大な固定資産(土地、建物、機械設備)を考えると、総資産額はそれなりでしょうし。
実際このビジネスモデルではハイリスクな財務は取りづらいので、デットファイナンス(借入)は最低限に抑えているのでしょう。

・組織:戦略を実現する「組織」にこそ真の強みあり。
佃製作所の競争優位性とは他社からも認められる圧倒的な技術、この技術を生み出すのは「人」と「組織」です。
組織の構成要素7Sでみるとざっくりこんなところ。

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技術を生み出すのはヒトと企業文化、これの源泉は佃航平のリーダーシップなので、ナカシマ工業が51%の佃製作所の株式を仮に取得できたとしても、佃航平がいなくては同じレベルで新しい技術を生み出していくのは難しかったと思います。
挨拶をする文化、成功をみんなで喜ぶ(自分事と捉える)、賞賛する文化、きっちりと5Sが守られている、組織の価値観が明文化されている(技術、誠実、品質など垂れ幕)、
神は細部に宿るじゃないけど、小さいことがきちんとしていますよね。


■ドラマの魅力とは?
2人の理想的なリーダー像と、わかりやすい魅力的な悪役、人間の弱さなど
とにかく「人間」を描いていることが共感できることではないかなと。

佃航平は、「俺は経営者に向いてないんじゃないか」とかいってますが、実際はスーパー経営者です。
とはいっても経営上のトップであり、中小企業に勤めている人や自営業やっている人には共感部分あっても、サラリーマンには他人事部分も。
その点、財前部長は中間管理職として社内のパワーポリティクスを理解しながらも、倫理観と職業人として公正な眼を失わずに仕事しているのは、すごい。
※個人的には吉川晃司はロックミュージシャンのイメージしかなかったので、イケメン部長っぷりに衝撃でした。

 

■経営における倫理観
とある尊敬している経営者と話した際「21世紀はethics(倫理観)が重要」といっていましたが、結構困難な決断をする際に倫理観は重要な判断軸だと思います。
倫理観として正しいことをしているからこそ、従業員はガウディ計画に集中できるわけですし、会社の結束力も高まっています。
正直、倫理観を無視しているサヤマ製作所には、社会的制裁が加わってほしい。(笑)


■今後、佃製作所に起きるであろう問題

このままいくと佃製作所は順調に成長していくのではないかと思うのですが、会社の「成長」はまた別の問題をもたらします。
特に気になるのは組織上の問題。

・従業員数が増えることによる問題。
現在従業員数は200名、すでにダンバー数(150)を越えていて、一人のリーダーで目を配らせることが非常に難しい従業員数。
現在は佃航平が影響力を非常に発揮していますが、だんだん規模が大きくなると、顔合わせたり話をすることがなくなってくると、今のような結束力、価値観を維持できるかどうかが問題になりそう。
ワークライフバランスなどあまりない企業ですから、一歩間違えるとブラック企業となりかねないですよね。
あえて成長を抑制するのか、それともより人事制度を充実させるのか、組織構造を小規模なものに分割していくのか
何かしらの組織上の課題が生まれると思います。
小さい組織だからこその強みでこれまで勝ち抜いているだけに、今後規模が成長していくとどうなるのか、興味深いですね。